激しく抵抗する女…。それでも強引に襲いかかる男…、それが知り合いの男性なら、抵抗続ける女性もついには性本能が勝って変身して男性にからだを与えていく。あの時、俺も渡辺マサコさんに抵抗されても襲いかかるべきだったのか…。
過ぎ去ったあの日、夜明から降りだした雪は、街でも20センチは積もっていた。前日は出産直前の妻にあって安産を祈願し、その日は、市役所会議室で開催した人勧給与改定の地区説明会で集まった関係者に二時間説明し、終わって関係職員と夕食を共にする。その後、日頃から親しくしていた渡辺マサコさん宅に立ち寄って、一緒にいた竹内君と再び飲みはじめ、酔いつぶれてそこに泊まる。
渡辺マサコさんは戦争未亡人だった。
昭和十九年秋、ご主人が出征する直前に結婚し、すぐに子供を授かったが、
ご主人は南方戦線で戦死し帰らぬ人となった。その時、奥さんはまだ十八歳だった。
それから奥さんは、たばこ屋を開店しながら女一人で子供を育て、
その子も、春には高校を卒業して警察官になっていた。
酒に酔っていた俺はそのまま炬燵に潜って眠っていた。
真夜中だった。目が覚め、見ると奥さんは炬燵の向こう側で眠っていた。
そんな寝姿を見て俺は奥さんを女として意識しはじめ、変な気持ちになっていった。
当時奥さんは女盛りの三十六歳だったと思う。
その時俺は二十九歳、結婚して三年目、妻は出産直前で実家に行って俺は単身だった。
妻の肌に触れられない男の欲望が頭をもだげていった。
そんな時、奥さんは未亡人だから男が欲しいのだろうと思っていたし、
奥さんの寝姿に手を差しのべてみたいという男の性欲が騒いだ。
何も知らずに眠っている奥さんに近づいていった。
寝ている奥さんの布団をそっと捲って奥さんの背に寄り添った。
奥さんのお尻に触れたと思ったら、奥さんはビックリして目を覚ました。
「まあ、どうしたの…」
「……」
「ねぇ…あなた、奥さんが出産前で居ないのはわかるけど、それはダメよ…」
ビックリした奥さんからあっさりと拒否された。
純だった俺は抵抗されてすぐに手を引いていた。
出来心が恥ずかしかった。顔もまともに見られなかった。
何でこんな事をしたのか…と悔やまれた。
あの時、強引に攻めていれば生身の女だからその気になったのだろうに…、
久しぶりに男のからだを感じた奥さんは感じてイッタだったろうに…、
純だった俺はそれ以上手が出せなかったし、強引に襲いかかる勇気もなかった。
その頃は、今と違って性は一人に捧げる貞淑なものとされていたし、
性が開放された今の時代とは雲泥の差があったし、
性についての考え方も閉鎖されている時代だったと思う。
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