二番太鼓を合図に第二部の祭事の演技者が参道から上がってきて舞台の奥に並んだ。黒門付きに赤い蹴出しもなまめかしいお多福と、チョンマゲのボテかつらに、印袢天という異様な姿の天狗、それに介添えの翁である。
   
 突然、天狗が舞台の中央に立つと、一尺ぐらいの竹筒を股にあてがい、両手で握りながらグルグル回し始めた。それが勃起した巨大な男根を想像させ、参拝者の笑いを誘った。参拝者の中には若い女性も多い。見ていると、別に恥ずかしがる様子もなく、アハハと大声をあげて笑っていた。
   
 やがて、お多福と天狗は宮司と神職の前に山盛りに盛った飯の膳を差し出した。「鼻つきめし」と言う。今ではすっかり廃れてしまったが、「鼻つきめし」は古い婚礼の形態だったようだ。天狗は盛られた飯に、股間に挟んだ竹筒から酒をつぐ仕草をする。畏まって端座する神官たちの鼻先で行われるこの「汁かけ」の珍妙な仕草も笑いを誘う。
   
 次いで、舞台の中央にゴザが敷かれる。天狗がゴザの上に座ると、お多福に横なるように誘う。お多福はモジモジしてなかなか応じない。恥ずかしそうになよなよと拒否する姿態は、大柄な男性が演じているとも思えないほど色気がある。
   
 観念したのか、お多福がコロリと仰向けになる。天狗は素早くその上に正常位で乗りかかる。二人は肩から腰をしっかりと抱いて結びあう。翁は岡焼き半分で冷やかし、舞台の前面にたって二人の姿を参拝者から隠すように愉快な仕草をする。
   
 遂には、翁は天狗の後ろに回って腰を押し「種付け」に協力する。事が終わって天狗とお多福はやおら立ち上がると、懐中から紙を取り出して股間を拭く。この紙を「ふくの紙」という。翁がその紙を参拝者に向かって撒く。首尾良く「ふくの紙」を手に入れたものは、家に持ち帰って閨房で使用すると子宝が授かると言い伝えられている。
   
 「ふくの紙」が足りなくなったのか、天狗が再びお多福に挑んで「ふくの紙」をさらに増産(?)する。それを参拝者に撒くのかと思ったら、何のことはない来賓に配られた。宮司の飛鳥氏が最後に「おんだ祭」の終了を告げ、来賓が舞台から豆まきよろしく、御供を撒いてお開きとなった。
   
 閨房の秘技を参拝者の前で堂々と見せつけるこの祭事は、型破りと言えば型破りである。だが、すべての所作は一切無言で行われ、ちっとも卑猥さを感じさせない。ときおり見せる演技者の所作にはユーモアが感じられ、笑いを誘う。一部の文化人は批判的らしいが、長らく飛鳥の農民によって演じられて来たのであれば、立派な無形文化財である。このまま後世に伝えてほしいものだ。


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