高校卒業30周年の同窓会があると言うので、参加してみる事にした。会場ではすっかりおじさん、おばさんになった同級生たちが、お互いの変わりように驚いたり、笑ったりしている。かつての悪友たちも家族を持ち、家を持ち、人生設計を持っていた。俺にはそのどれも無かったが、人に言えない仕事のおかげで、金だけはうなる程あった。

そんな中、俺は無意識の内にトモナガハツミを探していた。トモナガハツミはバレエをやっていた才媛で、俺の初恋の相手だ。俺だけではない。クラスの男子全員が彼女を好きだった。

誰が最初に彼女を落とすか、男子たちはこぞって告白をしたが、全員自爆した事は、この同窓会でも笑い話になっている。旧友たちはお前はなんで、トモナガに告白しなかったんだ、と俺を揶揄したが、お前らの自爆テロみたいな告白ゲームと一緒にするなと反論した。

そのトモナガハツミは会場に来ていない。幹事によると参加予定の返事をもらったが、飛行機が遅れているのかも知れないと言う。トモナガハツミはロシアに住んでいた。卒業後、ロシアのバレエ団にスカウトされ、後に世界的なプリマドンナになった事は、皆が知っている。彼女はロシア人の演出家と結婚した。

旧友たちの話題はトモナガハツミのレオタード事件に移った。在学中に彼女のバレエ衣装が紛失、または盗難に遭ったのだ。犯人は分からず仕舞いで、男子たちはお前が犯人だろとお互いを指して、卑猥な話題で盛り上がったものだ。俺はその犯人を知っているが、ずっと沈黙を守ってきた。

同窓会はお開きになったが、彼女は来なかった。俺は今一度、彼女に会って伝えるべきことがあった。二次会に繰り出す旧友たちと別れ、俺は誰も居ない住処への道を歩いていた。携帯が鳴った。

闇ビジネスの相手からだった。俺は化学薬品の違法プローカーだ。俺の売った薬品がテロ組織の爆弾になっている事を、公安が嗅ぎ付けたらしい。分かった、注意すると返事をした。

俺はイラついた。また電話が鳴った。用事があるなら一度に言え、と声を荒げた。

もしもし?エンドウ君?ハツミです。トモナガハツミです。

彼女はホテルのロビーで待ったいた。飛行機が遅れて同窓会には参加できなかったが、久々の日本で大切な人に会いたいという。彼女は30年前と変わらない美しさのまま、そこに立っていた。

お久しぶりです。元気?

うん、トモナガも元気そうだね。舞台公演、テレビで見たよ。

世界的なバレリーナが近くにいるのに、ホテル客が誰も彼女に注意を向けないのが、不思議だったが、俺には好都合だった。立ち話もなんだからと、ホテルのバーへ誘った。

お互いの時間を取り戻すように、俺たちは色んな話をした。俺は開口一番に彼女に謝罪した。

ごめん、トモナガのレオタード盗んだの、俺なんだ。

彼女は笑って許してくれた。

やっぱり、そうじゃないかと思ってたの。今でももってるの?

持ってるよ、毎晩抱いて寝てるよ。

そんな話題でも、彼女はとても楽しそうだった。30年という時間が、俺たちの関係を熟成させたのかもしれない。
思い切って聞いてみた。

なんだかさあ、みんなトモナガに振られたけど、本当の所は誰が好きだったの?

彼女は目を閉じて微笑んだ。そして濡れた目で俺を見た。

俺はホテルの部屋で彼女とセックスした。そうなるのが30年前から分かっていたように、二人ともお互いの体を通して、満たされなかった想いを埋めようと必死だった。何度もキスをし、抱き合いながら、声をあげて感じあった。俺たちはセックスの相性が最高にマッチしていた。俺は彼女がして欲しいことが分かり、彼女は俺のしたいことが全て分かっていた。

俺は彼女の美しい裸を見ている。まるで芸術作品のような体だ。その事を彼女に言うと、これが商売道具だからと笑った。私、近々離婚するの、とも彼女は言った。

エンドウ君、私を待ってたからずっと独身だったの?

そうだよ。

ごめんね、長い時間待たせて。

いいよ、また会えたんだし。トモナガさえ良かったら、俺と。

彼女は涙を流していた。

ありがとう、でも私エンドウ君のお嫁さんになれないかもしれない。

なんで?

私の方がエンドウ君より先に死んじゃうから。

・・・どういう事?

もう時間が残されてないの。

何かの病気に罹ってるの?

これ以上は聞かないで。エンドウ君が辛くなるだけだから。

分かった。なあ、トモナガ、24時間営業の店があるんだけと行かないか?

今から?

そう、行こう。

タクシーで街に出て、店に着くと彼女は驚いた。

24時間営業の宝石店。俺の経営する店の一つだ。燦然と輝くジュエリーの数々を彼女に自由に選ばせた。

選ぶのに悩むなら、店ごとトモナガにプレゼントするよ。

エンドウ君、いつの間にこんなにお金持ちになったの?悪い事してるんじゃないの?

それ以上は聞かないでくれる?トモナガが辛くなるだけだし。

彼女は笑った。その笑顔は俺を心から幸せにした。携帯が鳴り、俺は彼女のそばを離れた。

電話は同窓会の幹事からだった。いますぐテレビを見ろという。今いいところなんだ、もう少しでトモナガを、

そう言いながら、テレビを付けた。NHKの臨時ニュースが流れていた。

本日18:00頃、モスクワ発羽田行367便が墜落、乗客乗務員全員が死亡との情報が入りました。乗客名簿には世界的プリマドンナ、トモナガハツミさんの名前も確認されており、現地消息筋によると、墜落は自爆テロの可能性もあるとの事で・・・。

テロップとともに画面に映るトモナガハツミの写真が目に飛び込んで来た。さっきまで彼女がいた店内には誰もいなかった。